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吼える月
第10章 脆弱
倭陵における4人の武神将のうち、強さの次席であるジウと対等にわたりあえるだけの技量は、既にサクにはついている。
ハンが扱き上げた甲斐があり、幼少の頃より期待以上の成果をみせてきたサクに足りなかったのは、野心にも似た力への渇望。
最強の称号を懐く父親は、サクにとって羨望の象徴であり、そして超えられない壁だという固定観念を早くから植え付けていた。
だから潜在的な劣等感より、鍛錬にしても怠惰でやる気がなかった。
そこをなんとか"まし"にしてくれたのは、ひとえにユウナへの想いゆえ。
だがそれもユウナから大切にされすぎて、"生涯護衛役をクビにされることはない"と思い込めるほどの好待遇の中にいて、サクが武神将となる明確な意志を持たぬままに周囲が勝手にサクを次期武神将と認める環境は、あまりにもサクにとってはぬるま湯すぎた。
危機感がないだらだらと停滞した環境は、持てる力の質を低下させる。
だからこそハンは、家にて生存本能を養う鍛錬をさせていたのだった。
玄武の武神将は、余程の例外がない限りは世襲制であり、ハンも物心ついた時から武神将としての鍛錬を積まされてきたが、やはり強かった父親の影は偉大すぎて小さい頃は悩んだ。
だからこそ父親を超えてやろうと躍起になり、ひたすら鍛錬に励んで最強と謳われる今がある。
サクにはそうした欲が、武神将になりたいという積極的な意志が、欠如していた。
周りがお膳立てした中を、水のように流されるがままだった。
自らしたいと口にしたのは、休憩以外はユウナの護衛だけだ。