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吼える月
第10章 脆弱
武神将となるために3日の試練をやり抜くことが必要なのは、挑戦者が神獣の心を動かすほどに、どれだけ強く力を渇望し、どれだけ神獣の力を乞うているのか、その覚悟を苛酷な試練を通じて試しているからだ。
だがその3日の試練を抜きに武神将を移譲を成功させるということは、サクにそれ相当の切実な覚悟や力への渇望があることが、絶対条件でもある。
果たして、"姫を護るために生きたい"だけで、神獣は力を貸すのか……そこはハンにとっても賭けだった。
だが今――。
護りたいはずのユウナによって、護衛役を解かれるというありえない事態になったことで、サクは自らの力不足を真剣に悩み始めた。
恐らくゲイという男に、簡単に四肢を砕かれた……圧倒的な力の前になすすべもなかった記憶も蘇っているに違いないと、ハンは思う。
サクが弱いからという理由で、ユウナはあんなことを手紙に書いたわけではないだろうが、結果的にサクにとっては、ユウナに必要とされる強さを持ちたい…と力を切望することになったのだ。
そして――。
これだけサクの目に野心のような力が宿っていれば、玄武は力を貸し、既契約者との相克も無事に乗り切れるかもしれない――。
ハンは直感的にそう思った。
「姫さん……あんたの覚悟は、少なくともサクにとっては、いい結果を生みそうだ。……尽力、感謝する」
そんなハンの独り言は、サクには届いていなかった。