この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第10章 脆弱
一刻も早くユマを――。
既に街長は、街の民を総動員させてユマを探索していた。
そこにサクとハンも加わり、各々明かりを手にしてユマを探す。
自分が逃げ込む場所にいるかもしれないと、サクはいつもの隠れ場所を探したが、そこにもユマの姿はなく。
漆黒の夜、紅月に照らされた中を走り回るサク。
やがて……思案顔のハンと合流する。
「どうした、親父」
「ああ、この探索隊に……タイラがいない。あいつなら血相変えて、得意の大声でユマを探してもいいはずなんだが」
「それが?」
タイラがいないことが、なぜハンの憂いごとになるのかわからない。
「そこでタイラの父、饅頭屋のサカキに尋ねてみたら、タイラは時間を気にして出て行ったらしいんだ。女物の布を持って。それは丁度ユマと姫さんが飛び出して、一息ついた頃だ」
「布? なんだそれ」
「あのタイラがユマ以外の女と逢引きしているとは考え難い。だとすれば……ユマと会ったかも知れん」
「布を手土産にユマの気を惹こうと?」
サクは考えてみる。
ユマは贈り物で男に靡く女ではない。だからこそ、簡単に諦めないユマの引き離しにサクは苦心し、そしてタイラもまた苦心しているはずなのだ。
それでもふたり、黒崙にはいない。