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吼える月
第10章 脆弱
リュカは――
あの場でユウナを追いつめ、穢しただけではなく。
「本気で……呪ったのか、あいつ……しかも二度も」
消えぬ憎悪を、無垢なるユウナの心身に刻んだ。
どこに逃げようとも逃れきれない、忌まわしい傷痕を施した。
あの白い肌に……リュカの、邪なる烙印を。
サクにとって、それだけが腹立たしいわけではない。
「武術だけではなく、どこまで用意周到なんだよ。禁忌の術なんて、どこでそんなことを……!」
すぐに行動おこせるほどの準備を進めていたということに、近くにいた自分がまるで気づいていなかったことに、憤りを覚えるのだ。
この1年――。
傷心の痛手から逃れようと、リュカに不用意に近づかなかったことが悔やまれてならなかった。
もっと自分がしっかりしていたら。
もっと護衛役としての鍛錬で心身を磨き上げていたら。
今の状況は、未然に防ぐことが出来たかもしれないのに。
そして、リュカの暗躍によってリュカから遠い場所に立たせられていたハンから、リュカに気をつけていろと言われていたのに、結局は……ハンの心配通りの事態を許す結果となったのだ。
すべては己の弱さが招いたこと――。
この1年、護衛役をまっとうしようと鍛錬はしたが、失恋の痛みを振り切るためだけにしかすぎず、もっと身を入れて強さを切実に求めていれば、少しでも犠牲を食い止めることが出来たはずなのに。
サクはぎりぎりと奥歯を噛みしめた。
「サクの言う通り、確かにどこから禁忌の知識を、と疑問は残るな。禁忌書が玄武殿の書庫にあったとしたら、それはそれで問題だ。禁忌書は、皇主の命により焚書処分し現存させてはいけないものだ。
それが黒陵の、さらに祠官の住まう場所にあったとならば、黒陵の祠官は皇主の命に背いていたことになる」
黒陵にあってはならぬ禁忌の書を、リュカは見つけたのだろうか。
それとも邪なる識者から、禁忌の知識を得たのだろうか。