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吼える月
第10章 脆弱
「なあ親父。禁忌の術なんて、書を見た知識だけで簡単にできてしまうものなのか? リュカは術者ではない、ただの文官だった男だぞ? 簡単に姫様に呪いをかけて苦しませることができるものか? 呪いの力って、そこまで簡単に手に入って操れるものなのか!?」
「恐らくは、リュカが祠官の心臓を口にしたことが起因だろう。それが穢禍術の実行を可能にしたんだと俺は思う」
リュカは――。
「邪道な方法にて、強制的に手に入れた聖なる神獣の力は、穢された。つまり穢れた神獣の力は、呪詛という邪のものにより馴染み、相乗的に効果が出たんじゃねぇかな。……先例がないだけに、俺の推測の域を出ねぇが」
そこまで見越して、祠官の心臓を口にしたのだろうか。
「逆に穢禍術だからこそ、リュカでも出来たとも言う」
もしそうだとしたら、リュカにとってはすべてが計画的だったと言える。
「その呪いを解くにはどうすればいいんだよ。解呪方法は」
「元来、穢禍術とは、自らが負うべき一生分の災難を、依代(よりしろ)たる相手役に、呪詛として押しつける"身代わり"の術。
だから自分の穢れが大きいほどに、穢禍術をかけた相手はそれを背負うことになるために、より呪詛の負荷が多大になる理屈だ。
人を不幸せにして自らが幸せになる術が巷(ちまた)に蔓延(はびこ)れば、必ずや国は乱れる。だからこそ、禁忌として隠さねばならぬ術とされた。
解呪方法はひとつ。術をかけた本人が解呪し、渡した"禍い"をすべて引き取ること。それは即ち、術者の死を意味する」
「つまり……リュカが自分で術を解いて死ぬまで、姫様の呪詛は解けないということか? すべてはリュカ次第と?」
「そうだ。今、姫さんの生死は……リュカの手の中にある。そしてリュカもまた、その生死は姫さんとともにある。……まるで夫婦のようだな」
サクの顔が悔しげに歪められ、サクは拳を地面に打ち付けた。