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吼える月
第10章 脆弱
「他人が解呪は出来ねぇが、呪詛という姫さんの発作を、その都度……鎮めることはできる。あくまで、発作の都度ごとの、暫定的な処置になるが」
「その方法は!?」
食いついたサクは、睨み付けるようにハンを見た。
「姫さんの体内に流れるリュカの力と等しい力をぶつけて、呪詛の力を相殺させる。
今それができるのは、リュカ同様の玄武の力を持つ俺か、これからそれを懐柔しようとするサク、お前だけだ」
「俺でもできるのか!?」
ハンは、冷徹な眼差しで興奮するサクをみる。
「だが今のお前は等しい力の量に制御する技量だけではなく、力の総量そのものが、玄武の力を使いこなしているリュカの力量に及ばない」
「――っ!!」
「制御の技量は力の慣れだから、俺はさほど心配はしていない。問題なのは扱える力の大きさだ。
暫定的にでもリュカに匹敵する力を手に入れるためには、俺から移譲される玄武の力だけではなく、既住者の力も必要となる。しかも、双方協力してより強力な力となるように、"融合"に導かないといけねぇ」
サクは、目を細めた。
「姫さんの件がなければ、危惧すべきは、体内に入れた異種の力の暴走にお前の体が耐えられるか、だけだった。耐えられれば、あとは時間をかけて馴染ませればいいだけだ。主だと認めさせていけばいいだけだ。
だが、姫さんの様子では……そこまでの時間がない。強制的に、お前の意志のもとで、ふたつの異種の力を引き出すことが出来ねば、姫さんの呪詛は鎮まらねぇ。姫さんの呪詛を放置していれば、苦しむだけではなく……人間性は破壊され、死に至る恐れがある」
「……死ぬ!?」
「ああ。穢禍術で死ぬ者は、悲惨な最期を迎えると聞いたことがある。とにかく……禁忌の術の効果は凄まじいらしい。
姫さんにとっても体力勝負、そして精神力勝負となる。今までの元気な姫さんならまだいい。だが今の姫さんは……心身共に疲労しきっている」
サクはユウナを見つめた。
苦しげな顔には、色味がなかった。