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吼える月
第10章 脆弱
しばらく、サクとサラは瞬きを繰り返し、無言だった。
ハンが言った"端的"の理解に時間がかかっているらしい。
そして同時に仲良くふたり、口を揃えた。
「なんだよ、それぇぇぇぇ!?」
「なんですって!?」
ハンは、面倒そうにボリボリと髪を掻いた。
「……俺には力があり、姫さんに恋愛感情はねぇ。いい大人だし、割り切って鎮呪には臨める。
――サク、お前が決めろ。お前には荷が重すぎる条件ばかりだ。俺に任せるというのなら、まだ武神将の移譲をしねぇうちに、すぐにでも姫さんを抱く。黒陵の姫を、俺は見殺しには出来ねぇ」
「……っ!!」
ユウナが好きだからこそ、愛のない性交はしたくない。
ましてやユウナは、"男"によって傷つけられた身だ。
自分だけは……ユウナを癒やせる、唯一例外の"男"でいたかった。
だが――。
自分がしなければ、父親が……愛しくてたまらない女を抱く――。
そんなこと、絶対嫌だった。
だがそれは、自分が弱いからこその有効すぎる選択肢なのだ。
今の境遇からして、ユウナを一刻も早く苦しみから救えるのは、父の方がいいのかもしれない。
むしろこの場は父に任せて、自分は別の危険に臨んで今後に備えた方がいいと、自分でも答えが返る。
だが――。
「わかっている、わかっているんだ――」
サクは譫言のように呟き、顔に片手を覆った。
「だけど、たとえ儀式だろうと、事務的だろうと……姫様を誰にも抱かせたくねぇよ、俺は。これは……俺のただの私情だ。それはわかっているさ。
……だけど、もう嫌なんだ。他の男に抱かれる姫様を見ているのは」
そしてサクはまっすぐにハンを見た。
それは息子と言うよりも、ハンと同じ"男"としての眼差しだった。
「俺が姫様を抱く」
嫉妬にも似た……強い眼差し。
「想いを禁じられようが……どんなに危険で苦しかろうが……。俺以外の男に、姫様を……ユウナを、触れさせたくねぇ。たとえ親父でも」
「サク……」
「それだけは、嫌だ」