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吼える月
第10章 脆弱
「気持ちはわかるけれど、あまりに無謀な試みよ」
きっぱりと言い切ったのは、サラだった。
「サクが成功する可能性はあるでしょう。だけどそれは、きちんとした舞台が整ってゆっくりとした中でしたらの話。
神獣を正規の方法で体に入れること自体、それが馴染むまでにどんなに死に物狂いの苦しみに耐えることになるのか、サク……あんたはそこからしてまだわかっていない」
「お袋……」
「ハン、サク。なんとなく察したわ。サクが無事で生きてこれたのは、なにかと契約しているのね。その手首の邪痕をつけた相手に。
そしてハンは武神将をサクに譲ることによって、神獣の力でサクを護ろうとしている。しかも正規の方法を取らずに。……聞いたことがあるわ、緊急時以外にはしてはいけないという、例外的な移譲方法を」
「そうだ。サクは……あと5日の命しかねぇんだ。3日の試練をちんたらやっている暇はねぇ」
「5日……!?」
卒倒しそうになったサラをハンが慌てて支えた。
「そう……だったらなおさらのこと。正規ではない方法であればあるほど、誇り高い神獣はサクの体で暴れる。それだけでも私やハンが武神将となったあの試練より苛酷なのに、その上にサクの中の得体の知れないものを抑えて、さらには両者を1日で制御する……。
どこをどう思っても、危険すぎることなのに……それで想いを封じられて姫様を抱けなんて、サクが可哀想すぎる。なんでサクばかり、そんな目にあわないといけないの? ハン……私は、貴方の妻であると同時に、サクの母親なの……」
ハンは、辛そうに俯くサラの頭をくしゃくしゃと撫でる。
その手をサラは握りしめ、そして凜然と顔を上げて言う。
「ハンがしてちょうだい。サクには、取り急ぎここを脱出できるだけの力をつける時間をあげて。限られた時間を、ゆっくりと頑張れる時間を」
だがその声音は震えていた。
「ハンなら……貴方の体に負担をかけずに姫様を鎮められる。鎮められれば、サクは姫様と逃げ延びられる……」
だが鎮めるということは――。