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吼える月
第10章 脆弱
ぴくりと頬肉を引き攣らせたサク。
ユマは泣きじゃくりながら叫ぶ。
「姫様に献身的な護衛のサクを置いて、別の男と共に……この街を出ようとしていたの!! そんな姫様に、貴方は今後も命をかけて守る価値があるの!?」
確かに、どんな理由であれ……護衛役はクビになった。
「きっと今頃、タイラは姫様に唆され、私だと思い込んで……父さんの大事な紋章を盗んで金にして、逃避行をしているはずよ!?」
タイラが紋章を持ち、ユマのことばかり呟いていたのも事実。
「このままなら私は、姫様の代わりにされてしまう!! 色に狂った姫様を求めて、私……っ、兵士達にまた襲われてしまう!! ああああああ!!」
ユマは悲痛な声で絶叫する。
「サク――っ!!」
震えて消えてしまうそうなユマの体。
ユウナと同じ顔の、華奢な体。
もしも、自分が突き放さなければ、温かい家の中にて庇護されていたのに――。
そんな後悔とユマに対する遣り切れない陳情が浮かぶが、素直にユマのもとに駆け付けられない。抱きしめる資格すら無い気がする。
ここまで追いつめてしまったのは、自分だ。
「怖い……私怖いの!! サク、私怖い、サク、サク――っ!!」
護って欲しいと。
サクに傍にいて欲しいと。
力一杯抱きしめて欲しいと。
その想いは、ひしひしと全身で感じるというのに……足が動かない。
「サクっ!! 娘についていてくれっ!! お前はもう護衛でもない。ならば……っ、義理立てしなくてもいいんだ!! だったら、責任をとってくれ。こんなに……弱ってしまった可哀想な娘を。近くに居ながら、姫様の狂行を止められなかった、護衛としての責任、とってくれ!!」
街長が叫ぶ。
「お前は私が護る。だから、だからお前は娘の傍に――っ!!」
状況証拠は揃っていた。
だが、それがひとつに繋がらない。
サクの本能が、警鐘を鳴らしていた。
真実を看破しろと。