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吼える月
第10章 脆弱
「ユマ……お前、タイラと抱き合う姫様を見たと言っていたが、お前が家から飛び出した後、直接姫様となにか話したか? 」
「いいえ……っ、街の隅にいた時に声がして……。それがふたりの声で……。私……言葉も出て来なくて、ただ遠くから見ているだけしか出来なかった……っ」
「なんで……その後、街の外に出た」
「サクのために!! あまりに理不尽じゃないの、サクがあんなに尽くしているのに……、それなのに姫様はサクを捨てようとするなんて!! だから私……姫様にそれを訴えようと追いかけたの。それで……」
「追いかけて……会えたのか? 姫様やタイラに」
「いいえ、見失ってしまったの。だけど……もしかすると、姫様は兵士達が見つけてしまったのかもしれない。兵士達はあまりに姫様に執着していたから。私……命からがらで逃げ出したのよ!?」
色に狂った黒陵の姫。
その犠牲となった、同じ顔の哀れな娘――。
諦観したように目を伏せた後、毅然と顔をあげてサクは歩き出す。
「ユマ」
そして……痛々しい姿を見せるユマを両手で抱きしめ、言った。
「俺のために……ごめんな、ユマ。
俺……責任をとる……。お前が笑顔に戻れるよう、責任もって俺が護る。
俺、そんな可哀想なお前を残して、もうどこにもいかねぇ。
お前の傍で、ずっと……護ってやるから」
「サク……っ」
ユマは安心したような顔で、サクに泣き顔を微笑みに変えて見せた。
離さないというように背中に手を回し、勝利の美酒に酔い痴れたような……高慢めいたユマの表情に気づく者は、誰もいない。
「……と、本来ならそういうのが筋だろう。
この状況であるのなら、真実がどうであれ」
不穏に続けたサクの言葉に、ユマの眉間に皺が寄る。
「だけど、俺……お前が実際体を犠牲にしたのは心が痛いとは思えども、これ以上……お前の狂言に付き合っている暇はねぇんだ。
たとえ本当に、姫様が色に狂って他の男に抱かれようと、俺を嫌って遠ざけていようと。俺は姫様から離れることはねぇ。離されれば俺が追いかけるのみ。
お前がなにをしても、俺の心はお前には動かねぇんだよ、ユマ」