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吼える月
第10章 脆弱
「サク!?」
ユマと街長の声が同時に飛ぶ。
「俺が護りたいのは、姫様だけなんだ。
たとえ、弱ったお前を突き放すことになっても、お前を悲しませて恨まれようとも……」
サクは、とん……とユマの体を離した。
「俺がその肌に触れ、抱きたいと思う女は……、姫様ただひとり」
「サク、ねぇ、サク!! 私――っ、姫様の身代わりでもいいのっ!!」
「俺が……そう割り切れねぇんだ。お前は……ユマなんだ。俺の可愛い妹は、この世でひとり。それは姫様ではねぇ」
「サク――っ!!」
「ユマ。俺が姫様を護りたい理由は、凌辱されたことの同情ではねぇんだ。姫様が姫様だからこそ、だから俺は自ら進んで姫様の傍にいる。強制じゃねぇ、俺の懇願だ。
お前が姫様と同じく"凌辱された哀れな"立場になろうと、お前が姫様の地位に取って変わることはない。……それは、生涯変わらず」
「サクっ!!!」
「……ユマ。残念だが、出て行ったはずの姫様もタイラもそこにいる」
ユマがびくりと肩を震わせた。
「タイラに……街の紋章を持ち出させて、駆け落ちを唆して街の外に出させたんだろう? 最初から辻褄合わせの捨て駒にする気で。
そしてタイラを待たせて、お前が密やかに輪姦されている間に、タイラに姫様を俺から離すようななにかを命じてでもいたか。可能性的には、街のもっと東奥にあると言われる、人身売買を生業にしている輩達への仕事の斡旋だ。
だがタイラは、お前と別れた後……そこではなく、たまたま見かけたのだろう貴族への密告に切り替えた。俺と紋章を売った金を、お前とのこれからの生活費の足しにしようとふっかけたんだろう。
そして今、そのツケとして……ああして"壊され"て、ここに強制送還される羽目になった」
「な、なにを……っ!! こ、壊され……!?」
動揺したように裏返るユマの声。
「それにな、ユマ。タイラに抱かれていた姫様が、お前のフリしていたというのに、なんでタイラに語るんだ?」
――貴方の"監視"が嫌だからと。
「お前は……、俺に"監視"されている感があるのか?」
「そ、それは……」
「ユマ、どういうことだ?」
「と、父さん……これはっ」