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吼える月
第10章 脆弱
「――ユマ。清きお前の体を俺のために犠牲にさせて、本当にすまなかった。心優しく聡いお前がこんなことを決意させるまでに、ここまで追いつめさせてしまって、本当に本当に悪かった」
サクはユマの前で頭を下げた。
「……サク、信じて? 私の狂言では――っ」
「俺は男だから理解出来ないだけか? 女ならば……身に起きた辛い出来事を、こうして大きな声で誰にも聞かせられることが出来るものなのか?」
――私、私、私――っ、近衛兵に……姫様と間違われてっ!! 姫様じゃないって言っているのに、姫様は色狂いして男を誘いまくるから、だからなにをしてもいいんだって、沢山の兵士達に……無理矢理っ!!
「ひとには違いがあるだろうから、一概にすべてはこういうものだとは言えないだろう。だが……無理矢理なされたものを、堂々と告白して隠そうとする素振りがなかったのは……俺達への、ただの気安さだけが理由か?」
「……っ」
サクは、言葉を失ったユマに背を向けて歩き出す。
「それからユマ。……その指輪、どこで手に入れた」
――ユマ……お前、タイラと抱き合う姫様を見たと言っていたが、お前が家から飛び出した後、直接姫様となにか話したか?
接点はなかったとするユマの言葉を信じれば、ユマに渡ることはあり得ない……ユウナの指輪。酒宴の時には、ユウナの指にあったのだ。
「こ、これは――っ!!」
そして今。
遠目で見えるユウナの指に、リュカの指輪はない。
「ユマ。お前に無理をさせずに本当に幸せに出来る男を見つけろ。……俺は、お前を幸せには出来ない」
「サク、ねぇ、サク。待って、待って――っ!!」
サクはユマに背を向けたまま、こちらを見ているハンに言った。
「――早く儀式を」
サクの顔には、揺るぎない決意が漲っていた。