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吼える月
第10章 脆弱
「いいのか、色男。もう……ユマのことは」
「……茶化すなよ、親父。こっちも必死だ。もう……俺にはなにも出来ねぇ。これ以上は、俺の自制心が自信ねぇ。故意的にとはいえ、輪姦された可愛い妹を、怒鳴り散らしたくはねぇんだ。これが……精一杯」
背中に、サクを求めるユマの声。
それを聞いていながら、聞き流すサクは……痛ましい顔つきだった。
「お前は馬鹿なのに、おかしなところは聡くすぐに真実を見抜く。それもまぁ……姫さんが貶(けな)されて攻撃されていると思えばこそなんだろうが」
ハンが苦笑する。
「ただの馬鹿ではなさそうなところに、期待するよ、俺は」
「ああ、今の俺ではなく未来の俺に期待してくれ」
サクは笑って返しながら、真面目な顔をサラに向けた。
「お袋。俺にやらせてくれ」
「………」
「俺は……強くなりたいんだ」
「………」
「親父にできて俺に出来ねぇってのが、嫌だ。無性に嫌だ。
親父を……超えるため、最低限……ここを乗り切りてぇんだ。
限界を突破したい」
"親父を超える"
その言葉がサクの口から出たことに、ハンは嬉しさに顔が緩むのを必死で堪えていた。
同時に確信する――。
意志を持ったサクは、必ず自分を超えてくると。
「辛いわよ。死ぬかも知れないわよ」
「死なねぇ。絶対、死ぬもんか。それだけは……誓う。必ず、やり遂げる。大きな力を前になす術なく四肢を砕かれた、あんな屈辱な思いは二度とするものか。……限界を超えて、強くなりたい」
母と子の強い視線が絡み合う。
そして瞳を大きく揺らして目をそらしたのは、サラだった。
「必ず、生き抜きなさい」
「……ああ、勿論」
「あんたの異変を感じたら、すぐハンにさせるからね」
「……させねぇよ。強がりなお袋を泣かせるものか。そこまで俺は、親不孝ではねぇから、安心してろよ」
サクはにやりと笑いながら、ハンを見た。
「……俺が姫様を助ける。姫様を抱くのは俺だけだ。
危険は承知。この武者震いするほどの危険を乗り越えて……俺は、親父を超える武神将になってやる。――絶対」
その眼差しには、一切の迷いはなかった――。