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吼える月
第11章 儀式
  



  ・‥…━━━★゚+



 街の片隅、ハンが子供のために開いていた稽古場――。

 晩餐にふたりが家に戻ってこなかったのは、既にこの場で儀式を行うつもりで準備をしていたからだということに気づいたサラは……自分を弾いて深く繋がる父子の関係に軽く嫉妬を覚えて苦笑した。


 サラは儀式の場となる広間の横の部屋にて、熱に苦しむユウナの面倒を見ながら、ふたりが出てくるのをひたすら待っていた。


 ユウナはまだ目覚めないが、うなされているかのような所作が大きくなってきているのを思えば、覚醒はまもなくだろう。



 あれから半日が過ぎた――。


 もうあたりは十分に明るくなっているのは、窓から差し込む光でわかるが、街の様子はどうなっているのかはよくわからない。


 街長やユマはどうなったのか。

 タイラはどうなったのか。


 街の民はもう移動を始めたのか。


 すべてを投げ打つようにして、この稽古場に入り、内から鍵を閉めた。

 誰にも邪魔されるわけにはいかないのだ。



 ……この声を。



「うあああああああああっ!!」



 断続的に続く、息子の絶叫――。


 恐怖と苦痛を訴える凄惨なその声は、いまやもう掠れきっている。


 この稽古場は、防音に優れた造りになっており、外に音は漏れにくくはなっているが完全ではなく。そこにハンとサクふたりで、さらに布団や毛布などで内から目張りをして、暗い密封空間を作ったらしい。

 明かりは、ハンが持参した蝋燭ひとつ。


 外と遮断された暗闇は、集中力は増すが恐怖心を煽る。



「があああっ、ああ、あああああっ!!」



 ハンの声は聞こえない。


 サラには、サクの前に胡座をかきながら厳しい面持ちをしているだろうハンの様子が、容易に想像ついた。


 見守っているはずだ。

 自分も経験したことがない……例外的な儀式を行った者の責任として、そして父として。


 息子のすべてを、その目で見届けようとしている。


 それは、サクの"最期"ではない。

 サクの"変貌"を見届けたいのだ。

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