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吼える月
第11章 儀式
「ああああああああ!!」
見届けられるのだろうか。
あんなに声を上げている息子は、本当に無事に戻ってこれるのだろうか。
サラの胸は不安に押し潰されそうになる。
サラの試練においては、あんなに声を上げることはなかった。
玄武は"堅固"の神獣だが、獰猛さはかなりのものだと昔ハンから聞いたことがある。
サクの身がどれほどの強靱さがあるのか、試されているのだろうか。
それとも――。
暴れているのは神獣ではなく、サクの中にいるという"なにか"であり……、またはそのふたつの力のぶつかりあいに、サクの体が悲鳴を上げているのだろうか。
何度目かのサクの絶叫に、サラは両耳を手で塞いで震え上がった。
耐えられない。
母としては、女としては……息子の悲鳴は。
ぽろぽろと涙を流しながら、早く儀式が無事に終ることを願う。
武神将の試練というものは、神獣の特性により異なり、武神将は自分がどんな試練を受けたのか他に漏らすことは許されない。
だから元武神将であるサラがどのような試練を経たのかは、ハンにも知らぬところだし、ハンの試練がどんなものだったのか……それはサラにも知らされていない。
同じ神獣の力を乞う前後代武神将ですら、同じ試練を経たのかと口に出して確かめ合うこともなく。
ただ想像するのみだ、どんな死に目に合わせられたのかと。
「サク、頑張れ。サク……頑張るのよ!! 姫様を助けるんでしょう!? そのためには、ここは最低限乗り切らないと駄目なの、まだまだ大変なのはこれからなのよ!?」
ユウナの額の汗を手布で拭い取りながら、せめてユウナの存在が、苦しんで耐え続けるサクの生きる指標となってくれることを強く願った。
「うああああああああっ!!!!」
「頑張りなさい、サク――っ!!
くじけるんじゃない、闘いなさい――っ!!」
サラもまた、サクに負けじと声を上げ続けた。