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吼える月
第11章 儀式
蝋燭の灯が消え、場は暗くなった。
ハンはただじっとサクを見つめ続けた。
暗闇の中でもサクの絶叫は続いている。
暗くとも、サクの様子はハンには見えている。
ハンは儀式によってサクに玄武の力を移したが、それはすべての量ではない。
様子を見ながらサクに徐々に力を移していかねば、サクの肉体が衝撃に耐えきれずに一気に破裂する危険性があった。
あと四分の一というところで、サクは血を全身から一斉に吹き出したため、ひとまず移譲を断念したのだった。
サクの異変はそれだけではなかった。体が反り返り……バキバキと全身の骨を砕かれた音が鳴り響く。手足がありえない方向にねじ曲り、見えぬなにかに玩具のようにいたぶられているような有様だった。
サラが見ていたら、卒倒するほどの凄惨な息子の姿だった。
それでもサクは生きていた。
それでも彼は闘っていた――。
声を上げようと、肉体がどうなろうと……必死に戦い続けていた。
武神将という神獣の力を武力に行使できる特殊な肉体になるためには、普通の人間の器を超えねばならない。
一度体の組織を殺して、それ用の堅固なものに蘇生させる必要がある。
つまり、一度死なないといけないのだ。
ハンは、自らの試練の時に玄武に言われたことを思い出す。
強靱な肉体に勝る精神性を認めた時、玄武はその者の肉体を回復させるのだと。そうしてハンも、試練の終焉に生まれ変わった。
だからこそ、玄武の力は体に馴染み……使うことが出来たのだ。
だが、サクの場合は……勝手が違う。
予想通りとはいえ、無理に契約させようとしたために憤り、サクの中で最初から予告なしで暴れ始め、最早サクの意識はなく。
それでも彼の意志ゆえか、それとも魔との契約が功を奏しているのか、傷つけられた肉体は順次勝手に、確実に再生されていくのだ。