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吼える月
第11章 儀式
 

 苦痛を刻まれて機能をなくした肉体は、自動的に蘇る。

 そんな……抗し続けるサクの体に苛立ってでもいるのか、サクの中の玄武の力は、内から新たなる苦痛を与え続けているようだ。二度と再生できないようにと。


 永遠に苦痛だけ刻みつけられる、まるで無間地獄――。

 その中にサクはいた。


 まさか魔がここまで玄武の力に負けじと再生力をサクに授けるとは、ハンは想定していなかった。


 サクと契約した魔は、小物ではないのだ。

 雑魚であれば、玄武の力に触れただけで風塵と化してしまうから。


 それでも、魔に護られているからこそサクは生きていられる。

 魔がいなければ、ここまでされればサクの肉体はもたない。


 そして魔がいるからこそ、玄武はサクの体に閉じ込められまいとして、獰猛に暴れる――その悪循環。


 サクの体がもしも玄武の力を拒絶するか滅ぼされれば、閉じ込める器をなくした玄武の力は……今まで以上の凶暴性をもって、四分の一の力に合流しようとしてそれを持つハンに返ることになる。

 そしてハンとて、四分の一の力のみで、勢いを増した四分の三の力が一気に戻る衝撃を凌げるはずはない。相手は人間ではないのだから。


 サクに許容量がなければ、ここで父子は玄武の力に潰える。

 ……ハンもまた命の覚悟をしていた。


 サクの絶叫が聞こえなくなってきた。


「サク……?」


 動かないサクの姿を見て、ハンはさすがに顔色を変えた。


 外見上、四肢の異常や流血もなく……肉体の再生はなされているようだ。

 だが、サクからの生体反応がない。


 ハンはサクの頸動脈を触れた。


 体が……冷たい。


 そして脈は――



「サク!!!?」



 ハンの指がかろうじて触れるサクの脈は、


 あまりに弱々しく消え入りそうなものだった。

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