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吼える月
第11章 儀式
「サク、サク!!?」
「――……」
サクを片手で引き寄せると、なにか……聞こえた。
しているのかどうかすらわからぬ呼吸に交じり、なにか言っている。
ハンはサクの唇に耳を当てた。
「………よ」
「サク、どうした、サク!?」
「……の違い……」
「なんだ? なにが言いたい?」
「……四獣……違い……らねぇよ」
「四獣の違い?」
サクはなにか試されているのだろうか。
「……武だけ……い、も……」
"玄武だけないもの"
確かにそう聞こえた。
「四獣の違い……。
朱雀、青龍、白虎にあって、玄武にないもの?」
ハンは怪訝な顔をした。
「なんだそれ……」
四獣の違いなど聞いたこともない。
しかも玄武だけにないものなど。
色々ハンも考えてみるが、さっぱりわからない。
逆にわかったことといえば、本当にサクは今、危ない状態なのだということ。
だからおかしなことを口走って――。
「わかった!!」
突如叫んだのは、サク。
瞬間、場は……明るい水色に満ちた。
その目映い光が収ってきた頃、虫の息だったサクは――。
「これで文句ねぇだろ!?
約束、守れよ――っ!?」
……驚くハンにびしりと指をさして、元気に立っていた。
「約……束……?」
「あ、親父じゃねぇよ。ソイツだよ、ソイツ」
ソイツ……と言われているところはなにもない。
いや、居た。
片手に乗るくらいの――。
「親父、ソイツが逃げないように見張っててくれ。腹減ってるらしいから、ネズミでも食わせてやればおとなしくしてると思う。
俺は、姫様の様子を……ええと、隣の部屋だな」
ダダダダ。
サクは元気よく走っていく。
「なんだ……?」
そして残されたのは、ハンと……その掌の上にいる、小さな亀。
「まさか……玄武とか言わねぇよな?」
亀はなにも言わず、のそのそと首を動かしただけだった。
「見張れ……って? しかも腹減っている亀は、ネズミを食うのか?」
ハンの、困惑したような声が静まり返った空間に響き、やがてそれは大爆笑へと変わっていった。