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吼える月
第11章 儀式
 




「姫様――っ!?」



 サクが走って隣室に赴いた時、サラが丁度ユウナの上に覆い被さるようにして、四肢を上から押さえつけていたところだった。


「サク、あんた無事――って、本当にサクなの!? ハンじゃなく!? なんでそんなに髪伸びてるの!? 体も大きくなった!?」


 サラは、腰まである長い黒髪を振り乱した息子に驚愕の声を上げた。


「おう、俺はなんとか大丈夫だ。うわ、なんだこの髪!! 俺の髪か、これ!!」


 儀式を始めてもうかなり時間は経っているとはいえども、サクの髪がここまで伸びるような時間は経っていない。


 顔は憔悴したようには見えれども、服を破るようにして剥き出しとなった胸板は逞しく、体格自体も以前より確りとして背も高くなり、この短期間でますます美丈夫になったようにサラは思えた。

 自分が恋を始めた若き日のハンを見ているようで、不覚にも実の息子に胸をときめかせてしまう。


「なんだか視線の高さが違うと思ってたけど、そうかアイツ……本気でやりやがったのか。なあお袋、俺不細工になっては……ねぇな。こら、お袋がぽっとする相手は親父だろ!? 言いつけるぞ!?」


「い、いやあん」


「年考えろ!! ――って、姫様は!?」


「目を覚ましたと思ったら、突然悲鳴を上げて……体が硬直して痙攣し始めたの。とりあえず口に詰め物をして舌を噛み切らないようにしたりと対策はしているけれど、熱は高くて衰弱しているのに、段々と抗する力が強くなって……」


 サクは口に布を詰め込まれながら、サラの力で押さえつけられてもまだ暴れているユウナを見た。


 サラは現役武官ではないとはいえ、鍛錬しなくても元武神将としての名残を残す、"怪力さ"は健在だ。


 その力をもってしてもユウナの動きを制しきれない。


「姫様!?」


 サラに代わって、サクがユウナの上に馬乗りになり、両腕を頭上で縫いとめた。サクの力には敵わなかったらしい。

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