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吼える月
第11章 儀式
 
 睨み付けるようなユウナの目がサクに向けられる。

 久々の邂逅だというのにその目には、サクに対するすべての愛情はなく、むしろ憎悪のような攻撃性をもっていた。

 
 しかも……赤い。

 ……まるで凶々しい月色のように、赤く染まった目だった。



 その目に宿るは凶気。


 凶気が操るのは、狂暴性だけではなく――。


「姫……様?」



 男を惑わす妖しげな艶を纏っていた。


 人が意識上で忌み嫌う血の色は、見る者の潜在的な本能に刺激する。

 ユウナを映したサクの瞳が、血の色に染まりゆく。

 サクの瞳がゆらりと揺れた時、呼応するように、ユウナの瞳の色が真紅から色を変えた。


 闇に住まう魔が持つ、紫の色へと――。 

 その紫は輝きを放ち、"光輝く者"のような人外の煌めきを見せた。
 

 それは、まるでユウナの銀の髪の色のように。


 凶々しいとわかっているのに、心奪われずにはいられない……見る者を魅縛して離さない穢れた魔性の色。
 

 ユウナが、その瞳にサクを捕え、艶然と微笑んだ。

 その誘惑めいた微笑に、サクの……抑圧していた牡の部分が刺激される。


 とろりと濡れた紫の瞳は、艶めかしい視線をサクに向けた。


 誘っているのだ。

 サクを自らの餌にしようと。


 ユウナははだけ気味の体を、サクの体の下でくねらせた。

 サクを絶対的支配下に置こうと、その体でサクを煽る。


「サ、ササササ……」


 同性のサラですら、口が廻らない。

 なんとかサクの正気を保たせようとしているのだが、体が動かない。


 だがサクは違った。

 魅入られて屈するどころか、笑い出したのだ。


 ユウナの表情が僅かに曇る。

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