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吼える月
第11章 儀式
「……はは、こりゃ……手強いな。戦慄、する。ぞくぞくする」
サクは逆に挑発的にユウナを見て、舌舐めずりをした。
気を抜けば、堕ちる。
愛しい女の誘惑に、身も心も堕ちてしまいそうだ――。
ただそれは、ユウナが正気であればの話。
「……やっぱ俺しかいねぇよ、姫様の相手。誰が……他の奴に味合わせるものか。誰が溺れさせるか」
ユウナがこうして男を誘うのなら、惑う男達を殺してやりたいと願う……サクの独占欲だけが煽られる。
「だてに長年我慢させられてきた俺を、なめるなよ?」
そしてサクは言った。
「お袋。このまま……鎮呪の儀式に移る」
それは即ち、ユウナを抱くということ――。
「へ、ふへえ!? あ、あんた儀式って……詳細聞いているの!? ハン呼んでくる!?」
「いらねぇよ。今の……玄武の守護が薄くなった親父なら、姫様の色気にあてられちまうかもしれねぇから、絶対親父はここに呼ぶな。
鎮呪の方法は聞いた。それだけじゃねぇよ、色々……絶叫するほど沢山の知識を詰め込まれたんだよ。今まで勉強してねぇ分、凄まじい量だった」
「だ、誰に!?」
「イタ公に」
「イ、イタ公?」
「ああ、お袋も親父と一緒に、イタ公にネズミをやってくれ。なにせ腹減って機嫌が悪いらしいから。これ以上機嫌悪くなれば、約束とはいえ俺の身がやばくなる。イタ公にそっぽむかれたら、俺多分駄目だわ」
「は、はあああ!? 駄目って……というよりネ、ネズミ!?」
「そうだ。お袋がいつも格闘している、アレだ。早く行けっ!!」
「だ、大丈夫なの!?」
するとサクは、儀式前よりずっと大人びたその精悍な顔をサラに向ける。
「俺は……サク=シェンウ。最強の玄武の武神将を継ぐ男だ」
その余裕めいたものは、以前のサクには持ち得ぬもので。
「安心しろ。俺は……以前の俺じゃねぇよ」
自信ありげなその声音は、落ち着いた大人の色香さえ感じられ、サラはどきりとした。
そのサラの反応に気づいたのか、からかうような流し目を寄越してにやりと口もとで笑う。
そして彼は口ずさみ始めたのだ。
サラにも知らぬ、古き言葉で紡がれる禁忌の詠唱を。