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吼える月
第11章 儀式
その意味も言葉も知らぬサラは、サクが突如狂って意味不明な譫言を吐き始めたのかと心配したが、やがてサクは発光し、サクから統制のとれた力の波動を感じれば、これがサクの意志によってなされている"禁呪"の術だと本能的に理解した。
詠唱自体、そんな知識をサクが事前に知るはずもないし、仮にハンが先刻稽古場で教えたとしても、サクには一度に暗記できるだけの頭がない。
百歩譲ってなんとか覚えたとしても、サクは武術には長けているが術を使ったこともないはずで。術を使用できるのは、内なる力を引き出せる一握りの者達だけなのだ。
ましてやサクの中には、取り扱いが難しい神獣が居る。さらには正体不明の"なにか"が居る。
だがサクは、戸惑うことなく完全に……内なる力を使いこなしていた。
なにひとつ、取り乱した様子はなく――。
どこか信じられぬ心地で見守るサラの前で、サクが発光したまま、ユウナの額に指をあてれば……ユウナの動きは鎮まっていく。
だがその目の狂暴さは消えていない。
「姫様……いいですか、これから"治療"を行います」
その声は、強い語気でありながらも睦言のように甘やかなもので。
仕草ひとつとってみても、それまでの不器用な武骨さが見られずに、逆に女を翻弄させるような優位性を見せる。
息子なのに息子とは思えない艶香を放つのは、ユウナによって相乗的に引き出されているのか、それともサクがそう変貌したのか。サクが使う術がそうサクを変えるものなのか。
ユウナを魔性というのなら、サクだってそうだ。
サクの体内にいる"なにか"のせいなのだろうか。
それをサクは融合することで、自らの一部となしているのだろうか。