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吼える月
第11章 儀式
 
 
 侵入者だろうか。

 しかしハンがいるのに?

 そこまでの気配を感じ取れぬほど、ハンの力は鈍ってしまったのか?

 しかしサラにも、他の気配は感じ取れない。


 あと考えられることは、ハンが外に出たということだ。

 外に出て……戸を閉めることを忘れる事態が起きているということ。


 サラは、警戒しながら外を覗いてみた。



「な!!?」



 地面には、ネズミの大群が地面から砂埃をまき散らせて走っていた。

 まるで天変地異の前触れのように、それは異常な光景だった。


 サラの胸が嫌な予感にどくどくと早鐘を打った時、その埃だらけの中に、身を屈めているハンを見つけた。


 頭の上に小さいなにかを乗せ、片手で五匹ほどのネズミの尻尾を捕まえたままの格好で背筋を伸ばすと、サラとは別の方向を見つめ始めた。



「――ハン?」



 ……誰かを見ている。

 そしてハンはゆっくりと頭を下げ、サラはその方向をゆっくりと見た。



 そこにいたのは――。



「ふふふふ、最強の武神将が一体なにを?」



 ネズミの群れの向こう側に立つ――、



「見ておわかりのように、ネズミ採りです。

ですが……わざわざこんなに早くにお越しとは……」



 光を浴びると銀色にも見える赤銅色の髪をした若い男。



 それは――、



「……一体どういう了見です、祠官代理」


 
 今この場に来訪することを、誰もが想定していなかった……リュカ本人だった。


 サラの全身からさっと血の気が引く。

 ハンの顔は強ばり、警戒心に目をぎらつかせながら……リュカの背後に控える、サラには見たこともない武具を纏った近衛兵らしき集団を捕えていた。


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