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吼える月
第11章 儀式
  


「祠官代理とは、なにを他人行儀な。今まで通りリュカと呼んで下さいよ、ハン様。僕達はこれからも共に協力しあい、黒陵を護らねばならぬ立場なのだから」


 リュカは、サラが昔見たのと同じ柔らかな笑みを顔に湛えている。

 そこには、サクやユウナを苦しませたという、非道な残虐性はなにひとつ見られない。

 爽やかな若草色の服を身に纏い、陽だまりのような笑顔を見せる。


「ならば俺を呼び捨てに。そうすれば俺も祠官代理の呼称をやめよう」


 しかしハンの顔つきは緩和されることはなかった。

 今までとは違う関係なのだと言わんばかりに、立場の違いを強調させる。


「それは出来ません。貴方はいつまでも最強の武神将、ハン様ですから。祠官代理……まあ、暫くはその呼び方に慣れるとしましょう」


「では祠官代理。愚息の探索は俺に命じられたはずじゃ? 俺の片腕の代わりにとりつけた約束は5日……いや、4日後のはずだと記憶してましたけどね?」



 ハンが単刀直入に切り出した。


「ん……実は少し気になる噂を聞きまして。久々の黒崙の様子を見にがてら、事実を僕の目で検証しようかと思いまして」



 リュカは、ハンとの約束を違え、サクとユウナを捕えにきたのだろうか。


 サラは緊張に緊迫感に口から心臓が飛び出て来そうだった。


 捕まえさせるわけにはいかない。

 今捕まってしまえば、すべてが水の泡だ。


 せめて、ユウナの呪詛を鎮める時間を作らねば。

 彼らが動けるようにならねば。


 サラは厳しい顔をしながら、大きな音をたてて戸を閉めた。

 せめて……音でサクに危険が差し迫っていることを知らせたつもりだった。


 そして緊張感漂うふたりの会話に、悲痛さを顔に作って割って入る。


「もしや、リュカ様じゃないですか!? ごきげんよう、リュカ様。この度はなんと申し上げてよいのやら……。息子がとんだ不始末を!!」


 その場で項垂れながら両膝をつき、懺悔の格好で非礼を詫びるサラ。

 そして視線を密やかにハンに向け、この場は任せろと合図する。

 ハンはため息をついて、それを了承したようだ。
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