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吼える月
第11章 儀式
「顔を上げてお立ち下さいサラ様。僕はサラ様を困らせたくてここに来たわけではないのです。久しぶりに立ち寄っただけのこと。お元気でお美しいお顔を見せて下さい」
リュカはこちらに来たいようだが、なにせネズミの大群の勢いは盛んなため、その流れが途絶えるまで彼は動くことをやめたようだ。
「こんなおばさんにお美しいなんて……またリュカ様はお口がお上手に成長なされたようで。ありがたきお言葉に甘えさせて頂き……」
殊勝な顔つきだが、満更でもなさそうな顔でサラが顔をあげる。
「リュカ様、立ち寄られた割には、なぜそんな仰々しいお供の方々を? 残念ながらここにはサクはおりませんわ。サクがいたらハンもこんなところで、こうして呑気にネズミ駆除なんて……きゃあああハン、なんでネズミを手にしたままなの!! 捨てて捨ててっ!!」
わざとらしく演じることを、サラは決め込んだ。
「なんなのでしょう、このネズミの大群。こういう時、剛胆な精神を持つ……黒崙待機の暇な武神将は役立ちますわね」
サクがいないから仕事がなく、だから暇でネズミ駆除に駆り出されているのだと、サラは笑う。
ハンは苦虫噛み潰したような顔で、いまだ手にしたままのネズミをぷらぷらと揺らしていたが、前方にずり落ちそうに移動してきた子亀を、ネズミを持った手でまた奥におっつける。
ネズミに手を伸ばした亀は、ハンによって体がひっくり返って願いが叶わず、ゆっくりと手足をばたばた動かして不服さを申し立てていたが、そのことには誰も注意を向けようとはしなかった。