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吼える月
第11章 儀式
「本当になんでしょうね、このネズミの大群。今、黒崙だけではなく、倭陵全体でこうした小動物が逃走する珍事がおこっているようです。天変地異が起こる前触れでしょうか」
「天変地異が起こるなんて、怖いですわ。あれでしょうか、倭陵を崩壊に招く……"光輝く者"が動き出したんでしょうか」
サラもまた、リュカのようにいけしゃあしゃあと核心じみた際どい話題に乗って、他人事のように語る。
「本当にサクはそんな者と接点があったのでしょうか」
そして、息子を憂う母親のふりをして、リュカの反応を窺う。
「この1年、サクとは腹を割って話すということをしなかったのが悔やまれてなりません。一体、どうしてこんな事態になったのか。僕にもまだ……信じられません」
だがリュカは、顔色一つ変えていない。
かなりの演技達者だ。
だからこそ、長年多くの者達を欺いてこられたのだろう……サラは内心、感嘆のため息をつく。
「僕にできる限り、善処はするつもりです。ですから……」
「ええ、リュカ様。私達はサクの親として、正義心のままにすべきことをまっとうするだけです」
正義心――。
それは不当なる裏切り者に、無実のサクとユウナを捕まらせないこと。
生き抜かせること。
その決意こそが、母親としての演技を盛立てた。
「僕はハン様もサラ様も信じています、ふたりを見つけても匿い逃がそうとはしていないと。僕は平和的解決を望みます」
黒崙の民の運命を脅しに持ち出したのはリュカだ。
そのリュカが、同じ口で"平和"を訴える様を、ハンはただ冷ややかに聞いていた。