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吼える月
第11章 儀式
「リュカ様……先ほど声が聞こえたのですが、噂……とは?」
サラがきょとんとした表情を作って、リュカに尋ねた。
表情こそはなにも知らぬふりをしてはいるが、サラは内心、噂とは、サクとユウナが黒崙に居るという目撃証言なのだろうと思っていた。
タイラですらサクを売ろうとしていたのなら、移動をしているだろう黒崙の民も誰ひとり絶対裏切らないとは言い切れなかった。
生きるためには金が必要だ。
築き上げてきた財産を捨てさせたのは、黒崙に勝手に戻ってきたサク達なのだから。どんな会合を開いたところで、どんなにユウナが訴えたところで、どんなにサラ達が陳謝の誠意として財産を投げ打っても、わだかまりは完全には消えぬことだろう。
……それを現実の証拠として聞かされるのは、同じ街の民として長年過ごしてきたサラには辛いものだった。
この民達を家族同然だと思えばこそ、サクを皆が庇って護って欲しい……たとえそれが許されない自分勝手な願いだろうと、それは母としての正直な思いだった。
だがそれが叶わず、既に証言が漏れ出てしまったのなら、ここは下手にその話題から遠のいてリュカの攻撃に怯えるよりも、初耳だと知らぬふりをしてあえてこちらから近づいた方がいい。
智将を抑えこむには、先手必勝。つけいられる前に先回りして、無関係さを強調させた他人顔にて、頑丈な防御壁を作ってリュカの攻撃に構えた方がいい。
一抹の不安を抱えながらも、サラは微塵にも顔にそれを出さずに、ただの真摯なまでの純粋さを見せた。
リュカは困ったような顔をして言った。
「この黒崙に……黒陵の姫と名乗る色狂いの女が居て、待機中の近衛兵達大勢に"遊んで"貰いたいから迎えに来て欲しいと、夜訴えてきたと」
「はい?」
思わずサラはハンと顔を見合わせた。
それはサラが想像していたのとは、少し違うものだった。