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吼える月
第11章 儀式
「なぜ黒崙に姫様が? その兵士達は、サクの姿を見たんですの?」
リュカが後ろを向いて近衛兵に尋ねると、誰もが首を横に振る。
「いや、ユウナだけだったようです」
「それはおかしいですわね、だったら今……サクは姫様と別行動をしていると? 嫉妬に狂い、姫様を凌辱なんてことをしでかしたサクが、姫様と兵士達の情事を放置していると?」
「そこなんですよね、僕もひっかかるのは」
「大体姫様が色狂いなどする方だと、リュカ様はお思いなんですの? 仮にも許婚であり幼なじみであった貴方様は」
「しかし複数証言があれば、無碍にもできず。収拾をつけるために、僕がその事実を確かめに来たわけです。もしも兵士達の言い分を是とすれば、黒崙にはユウナだけではなくサクもいるということになる。
……つまり、貴方もハン様もふたりを匿い……僕に嘘をついているということになる」
険しくなるリュカの顔に、サラはかなり動揺していた。
だがそれをなんとか意志の力で押さえつける。
「そんな……っ、なにが真実でなにが嘘なのなのか、聡明なリュカ様ならおわかりのはずですわ!!」
"嘘"
その単語に、兵士達から怒りに満ちた声があがった。
どうしても彼らは、本物のユウナを相手にしたのだと信じてやまないようだった。
一介の兵士は、黒陵の姫の顔など普段は拝謁出来ぬ身分のくせに、相手をしたのは姫だと言い切る自信はどこからきているのだろうか。
リュカの手前、安易に意見を取り下げることも出来なさそうなだけに、タチが悪い。
――姫様は色狂いして男を誘いまくるから、だからなにをしてもいいんだって、沢山の兵士達に……無理矢理っ!!
サラの頭には、ユマの訴えが頭に巡っていた。
兵士達の言い分とは重なっている。
ユウナは確かに男を誘う魔性さを秘めている。
だが、サクがそれはユマの狂言だと信じる限り、サラもそれに従うのみ。
サクはそれがユウナではないとするのに、一方でリュカは疑いの目を向ける。だからこそ乗り込んで来たのだ。
「祠官代理が、それを姫さんだと思えた理由はなんだ?」
ハンが重々しく口を開いて尋ねる。
「指に……指輪をしていたというから」
リュカは嵌めたままの指輪に視線を落とす。
いまだ嵌めている、揃いの指輪を。