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吼える月
第11章 儀式
 

 ユウナを長年謀り、父を殺してユウナを穢して、そして多くを犠牲にしてまでユウナを追いつめようとしているリュカが、いまだ三人の友情の証でもあり、ユウナとのお揃いの……恋人同士の装飾具のようなものをつけている理由はなにか。

 いまだそれに、なんの未練があるのか。


 ユウナはその指輪は捨てたのだ。

 だがサクは捨てきれていない。

 男とは、女よりも"絆"に女々しく縋るものなのかとハンは苦々しく思うが、それでもリュカの表情に一瞬浮かんだ苦しみのような翳りが、より強くひっかかった。


「ユウナとそっくりな偽者だというのなら、少なくともユウナと接触して指輪を譲り受けている必要がある。ユウナ達はこの近くに居たということ」


 いまだサク達は黒崙に居るという可能性を、リュカは捨て切れていない。

 ハンがリュカの命令通り動くと、その忠誠心を、祠官と武神将との玄武の力で結ばれた絆を、信じ切っていない。


 サクとユウナを名目に、リュカは自分までも排除に動くだろう確信を強め、ハンは逆に敵愾心を燃やす。


 やれるものなら、やってみろと。


 なにがなんでも、リュカの奸計通りに事を進ませない。

 サク達を犠牲にはさせない。

 
 再度の息子と姫を護ろうとするハンの決意は、サラと同じく。

 顔に出さずに飄々と逆に訊いてみる。


「姫さんが捨てたものを、拾った可能性は?」

「……確かにありますが」


 まただ。

 ハンは、リュカの翳りに目を細めた。


 大罪を犯して顔色ひとつ変えぬリュカが、なんで指輪如きに表情を変えるのか。それ以上のことをしているというのに。


 この指輪が、リュカの弱点になり、状況を覆すことができるか。


 そうハンが目を細めた時だった。



「ねぇ、ハン様」


 俯いてあげられたリュカの顔には、既にその翳りはなく。

 見間違いかと思うくらいの、ただ冷ややかな……そう、玄武殿に帰還したばかりの自分に見せていたような、威圧感を伴う冷淡さを顔で覆い、そして聞いてきたのだ。



「どうしてこの街は、こんなに静かなのですか?」


 ハンは、心で舌打ちをした。
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