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吼える月
第11章 儀式
風向きを突如変えられ、攻め込まれた――。
さすがのサラも動揺して言葉が出て来ない。
「静かすぎる。ネズミが走る異常事態なのに」
それは猜疑心などなくとも、自然な疑問だと言えばそうだ。
「ここは今でも和気藹々としている街だと、ハン様は仰っていたはず」
街がもぬけの殻になっていることは、言い逃れできない異常事態だ。
ネズミよりも知能がある人間だけに、天変地異の類いにはできない。
なにか切り抜けられる理由を――。
ハンが色々考えていた時だった。
突然街が騒がしくなったのは。
出入り口から、大勢の者達が入ってきた。
それは見知らぬ人間ではない、見慣れた面々――。
「一体、何事!?」
怪訝な顔つきのリュカの声に呼応したのは、
「皆で買い出しに行っていたんだ。これから国がどうなるのかわからなくなるだろうから、買いだめ」
こちらに歩いてきた恰幅のいい花屋の主人。
「まとめ買いしたら、重すぎて腰が痛くて……。ハン、後で腰を揉んでくれよ。本当はサクがいいんだけど。ハンは痛いからさ。サク……本当に馬鹿なことしでかしやがって。今どこにいるのか」
武器屋の主人が大層な荷物を抱えて、腰を摩りながら嘆いた。
「お留守番ご苦労様、ハン、サラ。ほらあんた達の分、買ってきたから後で取りに来な」
八百屋の女主人が、新鮮な野菜が入ったカゴを高く掲げた。
「なんだこの物騒な兵隊。あれはリュカ様か? なんだ、期日前にとうとうサクが捕まったのか。複雑だよな、けど罪は罪だしな」
「捕まったわけじゃないだろ、サクの姿はない。大体サクが逮捕されれば、ハン相手に暴れまくり街は壊されまくってるだろう」
「この街にはハンがいる、ここで見つかるわけないさ。匿ったらこの街が滅ぼされるんだ、それをわかって匿う奇特な奴もねぇ。散々俺達話し合って、サクの追放決めたんだ。今頃どうしてるのかな」
「きゃああああ、なにこのネズミ!! ネズミ嫌い嫌い」
「こら、チャンカ。それは愛玩動物ではないの!!」
人々が――。
黒崙から消えたはずの人々が現れた。
何事もなかったかのように、女も男も老いも若きも、皆大きな荷物を持って各々家に入る。
それはハンやサラがいつも見ている、"和気藹々"とした街の風景だった。