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吼える月
第11章 儀式
ハンがざっとみた限りにおいては、ほぼ全員いる。
そのほぼ全員が、サクとユウナという異質の存在を日常風景の中に隠そうとしてくれている。
そんなおたずね者などこの黒崙にはいないというように、いつも通りに振る舞ってくれていた。
「なあ、指輪がどうのって声聞こえたんだけど、もしかしてこれか?」
突然ハンの前にぬっと手を出してきたのは、
「サカキ!?」
饅頭屋の主人サカキであり、タイラの父親でもあった。
その手には、ユウナの指輪があったのだ。
「なぜ!?」
そう尋ねたのはサラだった。
なぜ、黒崙にまだいるの。
なぜ、サカキが指輪を持っているの。
街長は、移動の主導権をサカキに委ねたのだ。
今頃、彼が皆を先導しているはずなのに。
「うちの馬鹿息子が、行商の帰りに北の草むらに捨ててあったこの高価そうな指輪を、あたかもユマに買ったようにしてユマに贈ったんだと。愛の証って奴で。元手タダとは、やっすい愛だよなぁ。がはははは」
サカキは呵々と笑う。
その顔から、突如笑みが消え、真剣な顔で言った。
「……これ、呪いの指輪だったんだ」
サカキにつられるように、誰もが剣呑に目を細めた。