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吼える月
第11章 儀式
「北に落ちていた……? 北にいるのか、黒崙ではなく?
この指輪に……呪い……?」
サカキの言葉は、リュカに軽く混乱をもたらしたようだった。
ユウナ本体に呪詛をかけた本人が、指輪にかけられた即席の呪い話に真剣に考え込んでいることにサラが冷や汗をかいた時、兵士達が騒ぎ出した。
「じゃあなんだ、姫とそっくりな街娘が俺達を謀ったということか?」
近衛兵達は、"黒陵の姫"という肩書きで多くがつられてきた。
極上の顔と体を持つのは、普段は指一本触れられない、噂に聞く黒陵の美姫。その姫が、自分達に抱かれたいと懇願している――。
なにをしてもいい。どんな抱き方をしてもいい。
この退屈な待機時間を、溜まりまくった精の捌け口にできるのなら。
4日後には、その姫はまた手の届かぬところにいくのなら、それまでに散々楽しもう。どうせ噂では凌辱された傷物の姫なのだから。
それが近衛兵の暗黙の了解だった。
生まれ育った国の姫でなければ、性奴とすることになんら躊躇いなく。
落ち着きなくやけに興奮する兵士達を見て咎めたのは……玄武殿にて彼らを招集していた、その姫の元許婚であるリュカだった。
近衛兵は基本、皇主の勅命を受けて動き、地方の祠官の命で動く兵士とは動きが異なる。
今回、サクという存在に太刀打ち出来なかったために、そして倭陵最強の武神将の片腕のために、黒陵国の警備兵とともに、祠官……もとい祠官代理の言葉に従い、サクの捕縛を数日後にまで待機して"やって"いるものの、それはあくまで"協力"しているだけであり、リュカや黒陵に忠誠心があるわけではない。
近衛兵にとっては、サクを捕えることだけが使命であり、サクが拉致した姫などどうでもよく、だからこそ、その姫に手を出すことに逡巡はなかった。あくまで地方よりも中央の方が偉いのだという自負があればこそ。
"汝らを動かすのは、皇主と上官のみ"
それは臨時で雇われた者達の精神にも、強く刻みつけられた……近衛兵の基本精神でもあった。
当然のようにリュカの詰問に恐れをなすでもなく、兵士達はリュカに聞かれるがままに語った。昨夜の娼婦じみた姫のことを。