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吼える月
第11章 儀式
相手にしたのは十人あまり。
そこから話は広がり、姫を弄ぶために集まったのは三十人あまりらしい。一小部隊ほぼ全員が欲にまみれていた。
姫を捕えるではなく犯すのは、命令違反だと主張したリュカに、兵士達は責任逃れのために、姫と名乗った女のせいにした。
リュカの上にいる姫の命令を聞いたからだと。
そこには罪悪感もなにもなく、祠官代理の力は通用しなかった。
ユウナは黒崙にいて、本当に色狂いになったのか。
リュカは、関わった近衛兵を連れて直接黒崙に赴き、真偽のほどを確かめに来たのだったが、わかったのは姫と同じ顔の街娘が、兵士達に犯されたと戻って来ている事実と、それは違うと昨夜乱交に昂じた男達が言っている事実。
そして、自分と同じ型の……呪いの指輪の存在――。
この指輪は高価で、街の民が簡単に手に入れられる代物でもなく、そしてなによりリュカが、この指輪はユウナのものだという確信があった。
拾われた指輪を嵌めた街娘が色狂いになるのはいいとして、なぜそれでユウナの名を騙るのか。リュカはそこがどうしても釈然としなかった。
なぜ、兵士達に迎えにこいと告げたのか。
民が買い物から帰還した街には、異常はなさそうだった。
街ぐるみでなにか画策しているのでは、というのは取り越し苦労のようだった。彼らの日常に狂いが生じた様子はない。唯一割り込んだ非日常的な事象は、ネズミと自分達の存在ぐらいだ。
証言者も、嘘をついているような挙動不審さはみられない。
魂胆があって呪いなど作り話をしているのかとも思ったが、相手の物言いはただの素人だ。呪術に詳しい輩ではない。
見聞したことを、素人特有の単純な思考で推測として述べている以上、現実的な事実の齟齬を見つけようとしても、無邪気に"呪い"という非常識のせいにされては、どうしようもないのだ。
ありえないことがまかり通るのが"呪い"というものなのだから。
真実は、非常識の中に隠蔽されてしまう。
だが――。
証言はユウナとは別人のものの可能性を示唆しているというのに、同時に強くちらつくユウナの影を、どうしてもリュカは払拭出来なかった。
なにかがしっくりとこない。
納得いかぬ顔で考え込むリュカを、サラは心配げな面差しで見つめ、ハンも気を緩めてはいない。