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吼える月
第11章 儀式
そんな憂慮お構いなしに、依然と持論を押し通すのはサカキのみ。
彼は、騒ぐ兵士達に、肩を竦めながら言った。
「なあ考えてみろよ、兵隊さん。夜中堂々と街を出入り出来る姫が、なんであんたらの相手をしてまた黒崙に戻り、昼間わざわざ迎えに来てなんて言う? 自由の身なんだから、昼間自分で行くなり逃げるなり、自由にすればいいだろう?」
今まで見向きもしていない正論に、兵士達はさらにざわめく。
「このけったいな指輪の持ち主が誰かはわからなかったが、ユウナ姫なら納得だ。呪いの力で、ユマは姫になりきっていただけだ。それじゃなくてもユマは姫に憧れていたから、妙に呪いに同調しちまったんだな。なにせサクが好きなのは姫だったから、ユマは姫のことを強く意識していたから」
「対抗心……ゆえと?」
リュカの目が細められた。
ハラハラして見守るサラの前で、サカキはなおも続けた。
「戻って来た時のユマは指輪をしていなかった。だから夜俺達は異常に気づかなかったが、また今日知らずに指輪を嵌めた途端色狂いさ。それで街長が慌てて、近くの祈祷師に指輪を見て貰いに行ったら、呪いのせいだと。
指輪の持ち主も……姫自身も、呪詛ってのをかけられているんじゃないかって言われたけど、確か……"サイカ術"って名だった。あんた知ってたか?」
それはリュカに向けられた言葉なのに、サラは自分が名指しで訊かれたかのように身を縮み上がらせた。
一方ハンは顔を顰めて、援護とばかりにサカキの話に乗じた。
「サイカ術……待てよ、皇主が禁じた呪術にそんなものがあったような……。確か……穢れの"身代わり"の術だった気が……」
わざとらしく、知識が曖昧なふりをして。
「祠官代理は御存知で? ……のわけはないか。本当にその禁忌の術であれば、黒陵には存在してはならぬもの、それを祠官代理が知れるはずはねぇ。武神将でも、触りの知識くらいしか口伝でしか訊いたことがねぇのに。サイカ違いかも知れねぇな」
リュカは口を閉ざし表情を隠している。
その話題自体を遮断しているかのように。
ある意味、隠しきれないそうした"無関心さ"こそが、リュカの答えでもある。触れたくないという単純明快な意志が働いているのだから。
リュカには、やはり穢禍術の知識があるのだ。