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吼える月
第11章 儀式
「だがもしも姫さんが、禁忌のサイカにかけられているのなら、相当やばいぞ。解呪方法はあるんだろうが、"消された術"について誰が知るというんだ……」
微動だにしないリュカを冷徹な眼差しで観察しているハンの前で、サカキが妙に訳知り顔でうんうん頷きながら言った。
「なぁリュカ様。きっとその禁忌のやばい術にかかったから、姫も"光輝く者"と内通しちまってたんだよ。だからさっさと、呪いを解けば姫もきっと正気に戻るよ。よかったな、結婚できるぞ」
サカキは行商慣れしているだけに、口が達者だ。
術だの呪いだのは、完全専門外。
無知であることこそが、サカキの度胸となる。
そしてひとは――。
目に見えぬ類いについて、逡巡さのない断言には、弱いものなのだ。
しかも、断片的にでも昨夜、ハンとサク、そしてサラとの間でなされた会話をなにか聞き取っていたのだろう。
それを繋ぎ合わせて、ところどころが真実の要素を入れているだけに、完全に嘘とも言えない妙に信憑性がありそうな、真実めいた話ができあがってしまったのだ。
あとはその話に聴衆を乗せ、"そうかもしれない"と引きずり込むだけ。
そしてそういうものは、口の上手い素人ほどうまいもの。
「呪いってのは、かけられた本人の持ち物にも伝染するとは怖いなあ。まあ姫にとって大切な指輪で、いつも身につけていたものらしいから、特別姫の念でも伝播したのかもしれねぇな」
すべては呪いのせい。強引な話の流れで終焉しそうな話に、異議を唱えたのは昨夜の女の味を忘れ得ぬ兵士達だった。
彼らは色狂う女の嬌態を目で見ていただけに、呪いという不確かなものを排除しようとする……厄介な存在になりはてる。
「あれが呪いのものか!! あの女は……正気だったぞ!?」
「そうだそうだっ!! 俺達のを何本も咥えこんで、何度も何度もイキやがった!! 犯すって……なに被害者面してんだよ、その女!!」
抱こうとしていた女を抱けずに、兵士達の下卑た欲求不満は憤りとなる。
「じゃあ見せろよ。指輪をしたそのユマとやらが、俺達が見たあの女に変貌する瞬間を」
「そうだ! 指輪をつけて呪いを見せてみろよ」
「ユマが居るところに案内しろ!!」
……不満は、爆発寸前だった。