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吼える月
第11章 儀式
昔から、サラは突然ハンの想定していないことを言い出すことがある。
そしてそれは、元武神将としてのサラの、困難を"生き抜く"ための奇策となり、ハンは今まで何度もサラに助けられてきた。
「黒陵に属する黒崙の民のひとりとして、一介の街娘の色狂いする姿を、黒陵の姫とみなされ、兵士達の性奴にと見下されてしまうのは許せない。
今までユマの尊厳のために黙っていたけれど、そのせいで黒崙が姫やサクを匿っているのではと疑われてしまうのなら、もう隠し通せないわ。
この建物に、ユマを隔離しています。私達夫婦と……そこのサカキの息子、タイラが見張り役。だから私達は、他の民達と同じ行動をせずに、さっきまでこの街で"留守番"していました」
平然と嘯くサラは、サクとユウナがいる稽古場を指さした。
無論、建物にはタイラはおらず、サラには狂ってしまったタイラが今どこにいるのかもわからない。
無理矢理にサクをタイラに仕立てるつもりだった。
ハンの目が見開く。
「サラ、お前……っ」
サラの奇策の概要が、ようやくハンにもわかったのだ。
「指輪を嵌めたユマに、タイラを宛てます。……それを、サクを知る方々と、色狂いの女を知る方々に確認して貰いましょうか。
ここで各々が別人だとわかれば、リュカ様の疑惑も晴れるはず。
リュカ様ならおわかりでしょう。仮にこの中に居るユマが姫様だったとしたら、サクがタイラなど他の男に姫様を抱かせないことを。色狂いして他の男に抱かれているのが姫様であれば、必ず抱いているのはサクとなる」
リュカは、凜然と言い放つサラを見て、
「姫様とサク双方を、貴方様はよく知る。ならば、ご自分の目でご確認し、お疑いをお晴らし下さいませ」
くっと唇を噛むと、項垂れるように頷いた。