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吼える月
第11章 儀式
 
 

 サラは賭けに出たのだ。

 恐らく、近衛兵を誑かしたのは……サクを欲しがるユマだろう。

 サクと姫を引き離すために、色欲に狂った兵士達を唆したのだ。


 ユマの嫉妬による体を張った狂言が、リュカという親玉を引き寄せてしまった。

 なによりサクとユウナをよく知る男が、あのふたりを追いつめる当の本人が、ふたりがいるこの建物の前に立っているのだ。


 今、この黒崙を戦場にはできない――。


 黒崙の民は、避難をするのではなく、窮地に陥っている自分達を護りに戻ってくれたのだ。少なくとも、街に誰も居ないという異常事態から、リュカの目を欺けたのだ。

 サカキの"呪い"も善意のもの。


 それがわかればこそ、兵士達にユマという名目を与えて、黒崙を探索されるわけにはいかなかった。


 動けないサクもユウナも、見つかってしまう。

 ふたりはすぐ近くにいるのだ。
 

 呪い話が嘘だとわかられれば、すべては水の泡。

 街の民がなんで嘘をついていたのか、リュカならすぐわかってしまう。庇ってくれていたのはひとりやふたりではないのだ。誤魔化すことはできないだろう。


 そして民が戻った黒崙は、街ぐるみの反逆罪の疑惑のもとに、命の危険にさらされてしまう。一番避けねばならなかった事態になってしまう。


 すべての危機を防ぐためには。


 ユマの助力を乞う余裕がないのなら、探索に移される前に……こちら主導で、ここに居るはずのないユウナ本人に、ユマという別人を、さらには色狂いを演じて貰うしかないのだ。



 一か八か――。

 危険を避けるためには、あえて危険の中に飛び込むしかない。



 それは――

 サクがユウナを抱いている場面を見せること、だった。



 気を昂ぶらせている兵士達に。

 そしてふたりをよく知り追いつめている……リュカに。

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