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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
 

 そして――。


 玄武殿の外に女が現れた。

 露出度が高い意匠の、妓女のような半透明な服を着ている女だった。


 女が艶めかしい足にて地面をひとつ叩いた直後、じゃらじゃらと装飾品を身につけた女は、扇を拡げて舞いだした。


 それは清楚であり淫猥であり。大人なのか少女なのかわからぬ、やけに妖艶で挑発的な眼差しを向けたかと思えば、扇で隠すようにして見る者を焦らす。

 月影に照らされて、薄い服から浮かび上がるのは……小振りながらも形のいい女の胸。細い腰。両足の付け根にある淡い翳り。

 女の服の下は全裸だった。

 
 月光を浴びた女は、ゆらゆらと妖しげに舞い踊る。


 それは夢幻に導く、幽玄の舞。


 山賊の誰もが生唾を飲み込んで女の艶美な舞に釘付けになった瞬間、サクの一閃が暗闇に光る。


 現実に返った山賊達は、気づいた時にはその半数以上を……半円状に反り返った刃を持つ偃月刀を、両手にしたサクによって失われた。


――こいつら、殺せ~っ!!


 闇に隠れていた山賊達が、激情に駆られて次々に姿を現わす。


――姫様にここまでさせたお前達を許さねぇ。姫様の体を見た奴の目を、すべて切り刻んでやる。


 それは猛る獣のように――。

 大きな刀を軽々と振り回し、大量の敵を次々に薙ぐ。


 女も手にある小刀で応戦しようとするのだが、サクは女に戦いを許さない。後ろに庇いながら、女に敵を近づけさせなかった。


 火弓が飛ばされ、あたりは炎に包まれる。


――頭領はどこだ!?


 ようやく、それらしき者を見つけたサクの瞳に殺気が宿った時、さらに山から多くの敵が駆け下りてきた。

 多勢に無勢。

 こんなに時間をかけていたら、玄武殿の中にも侵入を許してしまう――。



 その時、馬が嘶(いなな)いた。


――ごめん、馬屋が火に包まれ、遅くなった!! さあ、ここからは僕が相手だ。ついてこいよ、僕に敵うと思うのなら。臆病者は残っているがいい。


 リュカに挑発された山賊達の半数が、リュカを追いかける。

 リュカは武術は出来ずとも馬だけは得意であり、弓の攻撃を避けるようにして器用に手綱を操った。


 そして。

 リュカの馬が、垂直に右に折れた瞬間――。


 山賊達は土砂崩れに飲まれた。
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