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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
 

 そして次に誘うのは、過去ユウナとサクと遊んでいた森の中。

 ウサギやキツネを捕えるために三人で作った罠がまだ活きていることを知るリュカは、馬を走らせながら……手にしていた刀で蔦のような縄を切る。


 突如、枝を切り裂きながら振り子のように現れる大鎌。

 誘われる落とし穴。


 慣れた地形は、武術も体力もないリュカの知性を冴え渡らせた。

 自分の知識を使えば、剣や拳を交えずとも戦闘すら乗り越えられる。

 それは男らしいサクをいつも羨望視していたリュカにとって、初めて芽生えた……男として誇りだった。

 
 そして、リュカを追う輩は誰もいなくなった。


 リュカが戻った時、百は下らぬ屍の山に彼はぶるりと身震いをした。

 これはすべてサクが築き上げたものだ。

 ハンというあまりに大きい父親の偉光に隠されているだけの、サク自身の秘められた実力を突きつけられたような気がして、男として嫉妬する反面、そうしたサクと友であることを誇りに感じ興奮した。

 サクと共に歩む未来には、なにが見えるのだろうと。


 頭領に止めを刺したサクが、妓女に扮したユウナを惚けたように見た後、慌てたように自らの上着を脱いで、その体にかけているのが見えた。


――姫様、そんな格好させてしまい、すみません。


 そんな格好――。


 そこで初めてリュカは、月明かりのもとのユウナの姿態に目を奪われた。


 音が聞こえない。

 ユウナの艶めかしい体に、全細胞がどくどくと息づいた。


 ユウナは姫であり女なのだと、再認識した瞬間でもあった。

 喉がひりひりするまでの、熱さが体に込み上げてくる。


――あ、リュカ、無事だったんだね!


 そうユウナがリュカに笑いかければ、リュカは気まずそうに一度目を伏せ、そして笑顔を作った。


――ああ。やったな、僕達!

――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!

――ええ。無敵よ、あたし達は!!


 サクがかけた上着を必死に掴んで、羞恥に震えているユウナに気づかないふりしたのは、サクも同じ事。

 そしてサクが初めて人を斬って殺したことに、顔を強ばらせていたことも、ユウナもリュカも知らぬふりをした。


 そしてそんな三人の様子を、小隊を引き連れながら物陰から満足気に見ていたハンに、三人は気づかなかった。
  
 
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