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吼える月
第12章 心願
乱れた寝台の上――。
狂暴な光を宿した瞳を持ち、艶めかしい胸をさらけ出した女がひとり。
その胸に、大きく拡がるのは曲線で出来た幾何学模様のような黒い痣。
ところどころの箇所は、まるで内出血かのように大きく変色し、黒ずみかけている。
女は口から苦しげな声を出して、熱に汗ばんだ体を仰け反らせた。
今しがた女の服を左右に開いたばかりの男は、女の腹に馬乗りになりながら、聖邪混在する艶美な肉体の誘惑から逃れようと息を整える。
そして熱に潤む瞳のままで唇を堅く引き結び、暴れる女の両手の指を自らの手の指と絡め合わせて抵抗を奪うと、上から紫色の瞳を覗き込むようにして言った。
「口誦にて、痛みに逃げ込んでいた意識を呼び覚ましました。
姫様……俺の声が聞こえていますね?」
男の……サクの艶めいた声が、ふたりだけしかいない部屋に響く。
女の……ユウナの妖艶な紫の瞳が、サクに呼応するように僅かに揺れる。
サクは静かに微笑むと、ユウナの額に口づけた。
「姫様、これは治療です。姫様の感じている苦痛を鎮めるための……。
大丈夫、なにも心配ありません。俺を信じて……」
睨み付けるような紫の瞳に、逡巡の光が宿る。
同時にユウナの体が少し強ばりを解いた。
「いい子です、姫様……」
そしてサクは体をゆっくりと前に倒し、心で詠唱始め……ユウナの白い首筋に痛々しく黒ずむ部分に、静かに唇をあてた。
「俺の生気を送ります」
愛おしげに目を閉じ、ユウナの甘い香りを嗅ぎ取りながら、サクは体内に巡る熱い滾りを、詠唱と共にユウナに流し込んだ。