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吼える月
第12章 心願
 

「姫様、俺の方が……痛みよりもいいでしょう? だったら……俺に集中して。俺の……口づけを感じて」


 くちゅり。


 わざと唾液の音を響かせて、再びサクの唇が、胸の頂きから少しずれたところに落とされる。


「ぁ……っ」


 その際、胸の蕾を掠ってしまったのだが、ユウナの口から喘ぎにも聞こえる可愛らしい声が漏れたのを聞いて、サクは口もとを綻ばせた。


「可愛い姫様。ですが、おねだりはまた後で。戻って来たら、してさしあげますよ? いいえ、それよりもっと、気持ちいいことしてさしあげます」


「気持ち……いいこと?」


「ええ」


 サクは艶然と微笑んだ。



「苦痛に耐えられたらのご褒美の"治療"です。だから、頑張って……」

「サクも……気持ちいいの?」


 それは間髪入れずになされた質問だった。


「完全に意識戻ってないくせに……俺なんか心配しないでいいんですよ」

「サクも気持ちよくなんなきゃやだ。サクが幸せにならなきゃ……」


 ユウナの意識は完全には戻っていない。

 それでも譫言のように呟く様は、無意識領域にまでサクの幸せだけを願い続けていることを顕著に示していた。


 それが嬉しい反面辛い――。

 自分の幸せは、ユウナと共にあることなのに。



 サクは困った顔をしてユウナを見つめた。


「まったく……とんだ姫様だ。まだそんなに色っぽい紫の瞳をして、なんで涙を溜めてうるうるするんですか。俺の生気取り入れたら……なんで反撃とばかりに、甘えっ子の口調でそう煽ってくるんですかね。狂暴姫様よりタチ悪い。

……はぁ、それじゃなくてもこっちは、生気奪われてくらくらしているというのに、これが呪詛の反撃なのか? はぁっ、俺の理性……頑張れよ……っ」


 サクは深呼吸をして自分自身に喝を入れてから、ユウナに微笑んだ。



「……はい、俺も、気持ちいいことです。……たとえそれが"治療"でも、たとえそこに愛がなくとも、俺にとっては……僭越すぎる、僥倖です」



 どこか切なげな顔つきで。

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