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吼える月
第12章 心願
 
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 痛い、痛い、痛い、痛い……。


――……ま。

 
 痛い、痛い、痛い、痛い……。



――……め……様。



 もっと眠らせてよ。

 痛みのない世界に、放って置いてよ。



 あたしを、呼び起こさないで。

 あたしをここから連れ出そうとしないで。


 あんな……苦痛の世界に、戻りたくない。


 ここには――


 父様がいる。

 小さいあたしがいる。

 小さいサクがいる。

 小さいリュカがいる。



 なにも知らない、幸せなあの頃が拡がっているの。

 皆が皆を信じ合って、笑顔で幸せなの。


 だから、この世界を壊さないで。



――姫様……?


 うるさい、うるさい。


 サクを真似して語りかけないで。

 サクは、あっちで笑いながらあたしを手招きしているの。

 ハンにお尻をぺんぺん叩かれて、泣き始めたあれがサクよ。


――姫様、聞こえますか?


 こんな甘やかな声がサクのはずはない。


――俺が見えますか?



 サクはこんなに長い髪をしていない。

 ドキドキしてしまうほどに、こんな艶っぽい表情を見せる大人の男じゃない。



 ああ、ほら。

 貴方が邪魔するから、皆が消えてしまったじゃない。

 待って、待って……あたしを置き去りにしないで!!


 サク、サク、サク!!

 痛みがないこの世界でなら、あたし達はずっと一緒にずっと幸せでいられるのよ!!


 サク、あたしを置いていかないで!!

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