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吼える月
第12章 心願
帰らないと。
あたしがいるべき、苦痛の世界に。
あたしはここで時間を無駄に過ごすわけにはいかない。
帰らないと。
サクの住まう世界に。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……。
だけどどうやって?
この痛みの境界壁をどう乗り越えて?
――大丈夫、なにも心配ありません。俺を信じて……。
この声を、信じていいのだろうか。
この声に向かって、進んでいいのだろうか。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……。
――怖がらずに、戻って来て……俺のもとに。
サク?
ねぇ……サクなの?
――自己紹介より、姫様の肌は……俺の舌を覚えているかと思うんですが。
ああ、体に触れるこの熱さは。
肌を這う、この優しい口づけは。
来てくれたの?
もう主従関係は解消したというのに。
それともこれも、夢?
姿を変えたサクなら、一緒にいられるかもしれない……そんなあたしの甘さが見せた、あたしの妄執?