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吼える月
第12章 心願
ユウナの意識が完全に浮上した世界は、苦痛にと共に、サクの熱と匂いに塗れていた。
痛み主流の半覚醒状態の中、上に重なる男の……長い髪が見えた。
それが自分の黒髪と絡み合うようにして拡がる様は、扇情的だった。
上に持ち上げられた両手は、その男の指と強く絡み合ってはいるが、ユウナはその指を動かすどころか、身体のどこも動かすことは出来なかった。
外部的束縛というより、高熱で体力が消耗し過ぎていたのだ。
動けないから余計に、こうしていきなりに触れ合っている男の存在に緊張する。
その伸びた男の腕や、男の長い髪から垣間見えるのは、鍛えられた男の隆々とした筋肉。
褐色の肌を持つ強靱な肉体は、どこまでも逞しさを持つ異性のもので、雌の本能を刺激する"男"を意識させるものだった。
……記憶のサクとは重ならない。
自分はサクと思われる声に導かれてきたのに、違ったのだろうか。
見知らぬ男に組み敷かれているのか。
大体、これがサクだというのなら、なんでこんな状態になっているのか。
不安にどくどくと脈打つ鼓動は、ずきんずきんとした体の痛みの脈動に合奏するかのように、ユウナの体内から血の気を引かせた。
凍えた体温と、痛む体。
それは嫌でも、凌辱された記憶を思い出す。
――苦しめ、ユウナ。
リュカの呪いの言葉が頭を巡る。
だが――。
――洗浄です。
胸の谷間を熱く吸い付く唇は。
灼熱を伝えるその舌の動きは。
ユウナの不安を押し出すように強く、愛おしむように優しく。
――ここを……洗浄してあげたら、あんなに悦んでくださったのだから。
これはサクなのか。
サクの動きを真似た別人なのか。
どくどく、ずきずき。
混乱で、体が奏でる音に飲み込まれそうになる。