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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
たった16歳が、長年手を焼いていた大規模な山賊を討ち取った。
そんな華々しい戦歴を持つに至ったサクとリュカは、その数日後、その功績を称えられ、異例な時期だというのに最年少にして本格的な官人として認められることになった。
登用式――。
それは、仕官したい多くの者が夢見る瞬間である。
ふたりは正装にて凜々しい美貌を魅せつけ、祠官の前に頭を垂らし、正式に官人として任命を受けるに至った。
それを見守るユウナは、大好きな幼なじみふたりが同時に誉れある式に臨み、そしてそこに立ち会えたことに目を潤ませていた。
常に飄々としているハンとて、その瞳には薄く膜が張られている。
――では、若き新たな官人として、私に助言することはないか?
ユウナの父は朗らかで穏やかな祠官ではあるが、時折こうして臣下を試す。いついかなる時でも、国を思う心を忘れるなと言う戒めのためである。
感動の最中だというのに、ふたりに官人としての心構えを試してきたのだ。
普通は浮かれている新官人はなにも言えない。或いは当たり障りのない、常套句を述べる。
だがふたりは、違った。
――まずは、屋敷の外壁をもっと高くした方がいいかと。山に護られた地形があれば屋敷は安全だという神話は最早役に立たない。地形を知る者にとっては。そして敵は黒陵国内にもいます。国内での敵は、内政の不満を持つ者が多い。もっと民衆の声に耳を傾け、施策を見直した方がよろしいかと。
そうリュカが言えば、
――リュカに同意します。そしてもっと見張りを増やして警護を厳重にすべきだ。兵士にもっと危機感と忠誠心を持たせなくては。そのためにはあんな安月給であんな粗末な装備や設備をなんとかして下さいよ。あれでは、いかに指揮官が最強の武神将であっても、士気が下がるだけです。
ハンにいつも馬鹿息子と罵られる、機転の利かない武骨なサクとて、ひと言もどもらずに具体的に滔々と述べてくる。
ふたりは知らないが、リュカとサクの提案は、ハンが日頃祠官に提言してきたことだった。