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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
だが、それを祠官の側近である文官が、そちらに予算が廻ることで私腹の肥え度が低くなるからと、難癖つけて却下していた。
ハンと祠官の付き合いは長いとは言え、文官の方が内政施策には多大な影響力を持っている。
そして、その文官を怒らせれば、警備兵の待遇がたちまち悪化することもわかっているだけに、ハンはいつも強く言い出せずにいた懸案事項だった。
――ほう。それはなんの"指図"を受けたものか。
その文官がハンを意識しながら意地悪く尋ねれば、意図するところがわからぬふたりは、少し顔を見合わせて首を傾げ合った後、同時に言った。
――愛国心。
仕えるのは祠官ではなく、国なのだと。
そうも聞こえたふたりの言葉に、文官は怒ってふたりを退けようとしたが、祠官は面白がってさらに聞いた。
――この国で一番に護りたいのはなにか。
ふたりは再び同時に言った。
――ユウナ姫と、姫が愛するすべてのものです。
祠官は率直に返ったその答えを気に入って、ふたりの提案を改善することを約束した。
――祠官、この者達はあまりに無礼な……っ。
――飾り立てする言葉より、私は生の心の声を聴きたいのだ。それにユウナが私を愛する限り、この国もこの国の民も私もまた、彼らに護られる。そして私はユウナに愛されるように、親として祠官として力を注ぐ。そのどこに不都合なことがあろうか。
祠官の言葉は文官をねじ伏せ、そしてさらに後にリュカによってその文官は国外追放になる。
――横領罪です。ここに証拠があります。命失いたくなくば、即刻お引き取りを。
そして今、リュカは18歳にしてその文官と同じ立場にまで上り詰めた。
それをリュカの策略だと騒ぎ立て失脚を目論む者がいるが、そうした者にはリュカの知らぬところでサクが動く。
そしてサクの腕を妬む輩からは、サクの知らぬところでリュカが動く。
持ちつ持たれつのふたりの関係。互いが裏でなにをしているのか、話し合うことがなくとも、大体は暗黙に了解していることを互いはわかっている。
言葉に出さずとも体が動き、互いの背中を護る――。
それがふたりの信頼関係でもあった。