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吼える月
第12章 心願
 



「いいですか、姫様。これは治療です」



 サクは悲しげに笑った。

 どこまで普段のユウナの意識があるかわからぬ、愛しい姫に。


「ちりょ……う……?」

「そう、治療です。姫様から痛みをなくして、気持ちよくなるための治療です」


「それは……サクが幸……せ、になれる、やつ?」

「……ええ。幸せすぎるものです」



 相手がいつものユウナであれば、ありえなかった事態。

 相手がいつものユウナでなければ、満たされぬ自分の想い。


 自分に欲情してくれた紫の瞳。

 自分を男と意識してくれた紫の瞳。


 だがそれは、呪詛のせい。

 呪詛をかけた男のせい。


 その男を愛する姫は、本当に相手が誰だとわかって抱かれてくれるのか。


 そんな不安な心をひた隠し、サクはユウナを両手にぎゅっと抱く。


 触れあう肌と肌。

 しっとりと汗ばむ熱い肌。


 ふたりの肉体は、どこもが興奮してすぐに繋がれる状態だというのに、心は繋がっていなかった。

 サクが一番求めるユウナの心がないというのに、これからユウナに繋がれると悦ぶ肉体は、牡の本能丸出しの浅ましい男の性を主張し……そんな動物じみた自分が嫌になってくる。


 こんな自分を、正気に返ったユウナに嫌わないで欲しいと願う。

 心なく……ただ強制的に体のみで繋がる、ただの凌辱者と同じ立場で見て欲しくないと、切に願い続ける。


 愛を持って抱くことを禁じられてはいるけれど、心の奥底には……ユウナを愛して止まぬ想いがあることを、どうか理解して欲しいと心から願い続ける。


 それは、心願――。


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