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吼える月
第12章 心願
とろりとしたふたりの視線が絡み合う。
自然と顔が傾き唇が近づくが、サクがはっとしたような表情で動きを止め、悲哀に満ちた顔を横に背ける。
「それは……駄目です」
ぷらりと、サクの髪に隠されていた白い牙が揺れる。
それはサクなのに。
サクから口づけを拒まれるのが、これで二回目だとということを思い出したユウナもまた、泣き出しそうに顔をくしゃりと歪ませた。
「ふ……ぇ、サク……、サク……っ」
心動かぬサクを見兼ねて、両手でサクの頬を挟んで正面に戻すと、もう一度サクの唇に近づいていくが、そんなユウナの手をサクは静かに離し、唇の代わりにユウナの頬に口づけた。
「すみません、姫様。これは……"治療"には必要ないんです」
割り切ろうとするサクの気丈さが、ユウナの悲しみをますます煽った。
体はこんなに熱く、溶け合うように繋がっているのに、甘やかな声音が吐き出される唇との繋がりは拒否される。
その意味がわからぬユウナは、紫の瞳に大粒の涙を溜める。
「あたしが……嫌い?」
「この状況で、その聞き方……反則です」
その姿に絆されそうになるサクではあったが、俯き唇を噛んで忍んだ。
「我慢……できなくなるじゃねぇかよ……」
凄惨な翳りに覆われた顔で、ぼそぼそと独りごちるように、サクは本音を吐露する。
「体以上が欲しくてたまらなくなったら……呪いを……鎮められないんだよ。俺が出来なくなったら、姫様は俺以外の男とこうしないといけねぇんだよ。嫌だよ、俺がそんなの嫌なんだよっ!! だから、だから……どんなにしたくても、出来ねぇんだよ……っ」
ユウナには理解し難いことを口にして、見上げてくるサクの表情が憂えた男のものとなる。
「治療……治療なんだよこれは。だから姫様……姫様は俺と睦み合いのようなことはしなくていいから……」
サクの潤んだ目が、切なげに細められた。
「姫様は、ただ治療されててください」
ふたり抱き合った対面座位のまま、サクはユウナの頭を撫でてから、両手でユウナの腰を少し浮かせる。
「……必ず呪いを鎮めますから……」
そして――。
ゆっくりと腰を回すようにしてから、静かに上下に動き始めた。
ユウナを傷つけぬよう、ゆっくりと優しく――。