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吼える月
第4章 回想 ~崩壊~
 

「リュカがここに来たということは、私もうお父様に会えるようになったのかしら?」


 すると少しの沈黙を経て、リュカは苦笑する。


「今祠官は来るべき刻に備え、術の強化に奮闘なされている。もう少し後になるね」


 僅かに過ぎったなにかの影。

 それに気づいたサクが目を細める。


「……祠官は、元気なのか?」

「……。ああなんとかね」



 ユウナの母親であるライラが病死して二ヶ月あまり。

 両親の仲睦まじい場面は見ていなかったユウナだが、母が逝去してから、父の様子は明らかにおかしくなっていった。ユウナの心配の声すら届かず。

 塞ぎ込んでいたと思ったら笑い出し、突然立ち直ったかのように思えば、ライラによく似たユウナを妻だと間違え抱きしめようとしたり、とにかく気分の抑揚が激しかった。

 都度ユウナが心を痛めるのを見兼ねて、ハンとリュカとサクは、暫くユウナを父親から離れさせようとしていたのだった。


 そんな折の赤き満月。
 
 なんとか祠官の注意をそこに向けようとリュカもハンも必死なのだが、今ひとつというところだということを、サクもハンから聞いていた。


――なにか嫌な予感がするんだ。


 あれはいつの頃だったか。

 ハンはサクにぼやいた。


――今、祠官の気分はリュカに支えられている。リュカの気持ちひとつで、祠官はどうとでも動く状態だ。


 だからサクは憤って、ハンに言った。

 リュカは野心を持つ男ではないと。

 リュカのなにを今まで見てきたのかと。


――だが、現在の祠官のリュカへの寵愛が凄まじいのは、お前もわかっているだろう? 


 それはサクも噂に聞いていた。

 まるで亡きライラに接するように、リュカを溺愛しているフシがあると。

 リュカは男娼の如く色仕掛けで、祠官を操っているのではないかと。


 そんなこと、ありえないのに。


 否定したくてもリュカの色香が最近頓に酷くなっており、その噂払拭のために、サクもかなりの人数の口封じをしてきたのだ。

 無論人殺しではなく、恫喝或いは威嚇なのだが。


 サクはその色香自体は、ユウナへの想いゆえのことだと思っていた。

 同時にユウナもまた、妖しげな色香を放つようになったから。

 
 ふたりは心を通い合わせ始めたのだと。

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