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吼える月
第12章 心願
 

 サクは自分の体にも返る痛みに脂汗を垂らしながら、なんとかユウナの胎内から呪詛を相殺しようと試みていた。

 だがあまりの激痛に思考がぶれて、集中出来ない。

 
 ……サクもまた、リュカという名前に囚われた瞬間、呪詛の反撃を不意打ちで食らったのだった。



 さらには――、
 

 ドタドタドタ。


 サクの集中力を乱す忙しい足音。


「ちっ……お袋かよ。こっちは切羽詰まってんだ、静かにしてくれよ」


 そして――大きな声がした。


「10を数える間に至急"ユマ"につけさせて!! 疑問を持つことも口を開くことも、一切を禁じるわ、"タイラ"!! いくわよ、10、9、8……」



「ユマ……タイラ……?」



 そしてびゅんと飛んで来たのを、サクは反射的に手で掴む。

 それは……リュカとお揃いのユウナの指輪。


 最後の記憶では、ユマがつけていたものだった。



 とりあえずユウナの指につけたが、忌々しい……リュカとの絆を示す存在に、サクの心は嫉妬に焦げ付く。


 体を繋げていても、リュカが邪魔をしているようで――。

 リュカが……どこまでも痛みとして、ユウナに浸透しているようで――。


 サクの愛撫も今のユウナには効かない。

 優しさは痛みに勝らない。


 痛みをユウナから消すことができないのなら、痛みを超える刺激を与えねば、きっとユウナの気をそらすことは出来ない。

 気をそらした隙に、鎮呪を完成させないといけないのだ。



 そして聞こえたサラの声。




「さあ、タイラを貪る色狂いのユマを……ご確認下さいっ!!」


「……まさか」



 それで、サクはわかった。


 
「姫様を……色狂いに仕立てて、他人のフリして……リュカの前で抱けだと――!?」


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